飼料用トウモロコシで作れる中南米の郷土料理
僕が南米で暮らしたのは30年以上も昔ですが、そこで経験した食生活は今もなお僕の中で生き続けています。その最もたるものが当ブログで何度も取り上げ、主題とも言える南米独特の肉食文化やBBQです。ところで、中南米を代表する独特の食文化と言えば、忘れてはいけないものがトウモロコシです。中南米はトウモロコシの原産地であるだけでなく、今なおトウモロコシを主食の一部としており、様々な調理法によるトウモロコシ料理が食されています。
トウモロコシと聞いて日本人が先ず思い浮かべるのは甘い「スイートコーン」だと思います。しかし、中南米で主食や料理として食べられているトウモロコシはスイート種ではなく、日本では家畜の飼料用に栽培されている「デントコーン」と呼ばれる種類もしくはこれに近いものです。このため本格的な中南米のトウモロコシ料理を作ろうとすると、実は材料が手に入らないというケースが多いのです。このブログではこれまでも何回かトウモロコシを使った中南米料理を紹介してきましたが(チパグアス、ソパパラグアージャ、トルティーヤ)、何れも家畜用「デントコーン」を独自に入手して作ったものです。
生のトウモロコシを調理する「チョクロ」は真夏の味
主食としてトウモロコシを食べる場合は成熟した実を粉にして調理したり、トルティーヤのように臼で挽き砕いて調理するのが一般的です。全ての穀物に共通することですが、実は登熟するほどデンプンやタンパク質のような栄養成分がより蓄積されます。このためカロリー源となる主食として穀物を考えた場合、出来るだけ登熟させてから収穫して利用することが経済的にも栄養的にも最も理にかなっているのです。
ところで、作物には本来の収穫期を外すことで違った味が楽しめる場合があります。この身近な例は「枝豆」です。枝豆は大豆の株がまだ緑色で、本来の収穫時期よりも早くに収穫して莢ごと茹でて食べるものですが、大豆そのものとは味も調理法も異なります。
枝豆と似たような食べ方が中南米におけるトウモロコシの「チョクロ」です。「チョクロ」とは一般にトウモロコシの実が柔らかいうちに収穫したものを指します。これはまさに「枝豆」のような存在で、フレッシュなトウモロコシの味を楽しむ、夏を象徴する食べ物になっています。
南米チリの夏の郷土料理「パステルデチョクロ」
フレッシュなトウモロコシ「チョクロ」は中南米で広く食されています。以前記事を書いた南米パラグアイの郷土料理「チパグアス」もこうした「チョクロ」を使った料理の一つです。今回は同じ南米の国チリの夏場の郷土料理として有名な「パステルデチョクロ」を作ります。パステルデチョクロは直訳すれば「チョクロのケーキ」という意味になります。
先ず生のデントコーンを用意します。生のデントコーンは知り合いに酪農家の方がいれば比較的簡単に手に入るかもしれませんが、収穫時期が限られているので一般には難しいと思います。デントコーンがなければスイートコーンでも構いません。またスイートコーンの場合は缶詰でもOKです。デントコーンの場合は開花してから3週間後くらいが「チョクロ」として収穫する場合の目安です。
実を言えば「チョクロ」の収穫はスイートコーンの収穫と基本的に同じタイミングなのです。つまりデントコーンの実がスイートコーンの実と同じくらいの固さになった時が収穫の適期です。スイートコーンを使った場合は甘みが強くなり、味もやや異なりますが、本場でもパステルデチョクロにスイートコーンを使う事は多いようです。デントコーンでもスイートコーンでも生の実を使う場合は、皮を除いた後に軸から包丁で実をそぎ落とします。
パステルデチョクロの生地(マサ)と具(ピノ)
パステルデチョクロはチパグアスよりも手の込んだ料理です。今回はチリ発のレシピを複数参考にして作りましたが、郷土料理の常でレシピの細部は人により結構異なっていました。いろいろ工夫したアレンジも可能だと思います。
先ずは主役のデントコーンの生地(マサ)を作ります。フードプロセッサーで実を細かく粉砕するのですが、この時に生のバジルの葉を加えるのが特徴で、パステルデチョクロには欠かせない香辛料です。
次は細かく挽いた実をそのままフライパンで熱していきます。目安は20-30分。この時は塩と砂糖以外は水も牛乳も何も加えないのが基本だそうです。ただ今回そのまま熱していると水分が蒸発して生地が結構固くなってきました。途中何回か水を足しましたが、このあたりは実の登熟程度によるデンプンの量で違いが生じるのかもしれません。生地は後で伸ばすので、様子を見て固すぎれば適度に水を加える必要があります。
次に具の方ですが、ゆで卵、鶏むね肉(別に焼く)、黒オリーブ、そしてピノと呼ばれる挽肉を炒めたものを使います。ピノはタマネギと牛ひき肉を合わせて炒めたものですが、これには塩コショウやレッドペッパーの他に香辛料としてクミンが絶対に欠かせません。
フレッシュなトウモロコシの独特の風味にバジルとクミンが隠し味
生地と具が完成したら、耐熱皿に入れます。本場チリのレシピを見ると具を中に上下から生地で挟むやり方と、具を先ず皿にのせ上から生地を被せるやり方があるようでしたが、今回は後者にしてみました。最初に挽肉のピノ、その上にゆで卵と鶏肉と黒オリーブ、そしてデントコーンの生地をその上に被せました。
今回は生地が固めで、伸ばすのに苦労しました。YouTubeなどでチリのレシピを見ると結構生地は柔らかめです。収穫時期が関係しているのかもしれませんが今後の研究課題です。生地を被せたら最後に上から砂糖を振りかけます。量は目で白さがはっきりわかるくらい。食べてわかりましたが、この砂糖は結構味の決め手になっていて欠かせないものだと思います。砂糖を乗せたら、200℃のオーブンで20分くらい調理して完成です。
同じフレッシュトウモロコシ「チョクロ」を使ったパラグアイのチパグアスよりも味は複雑な感じです。それは不味いというわけではなく、深いという意味です。フレッシュなトウモロコシの旨味に加え、生地に混ぜたバジルと具に入れたクミンがよい隠し味となっています。ちょっと驚いたのが最後に乗せた砂糖。ちょっとカラメル化して、それが味をとても引き立てていました。
北海道で郊外をドライブすると頻繁に目にするデントコーンで真夏の南米気分。デントコーンが手に入らなければスイートコーンを使って是非一度試してみてください。
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