飼料用トウモロコシから作る国産トルティーヤに悪戦苦闘

メキシコ人の「ごはん」トルティーヤの材料はトウモロコシ

メキシコ料理の代表と言えばタコス、そしてタコスの具を包む皮の部分がトルティーヤです。トルティーヤはトウモロコシ粉で作る無発酵パンの一種であり、メキシコの伝統的なカロリー源、日本の「ごはん」に相当します。トルティーヤは本来はトウモロコシ粉が原料ですが、一般的には小麦粉で作るフラワートルティーヤの方がポピュラーかもしれません。フラワートルティーヤの方が柔らかくて癖がありません。でもやはり本場の味はトウモロコシ粉で作ったトルティーヤの方です。

created by Rinker
オールドエルパソ
¥872 (2024/04/25 18:44:04時点 Amazon調べ-詳細)

トルティーヤには「ニシュタマリゼーション」したマサ粉が必須

トルティーヤはトウモロコシ粉を買ってきて練って焼けばすぐ出来るかというと実は結構これが難しいのです。トウモロコシ粉は小麦粉のようにグルテンを含みません。このため水を加えて捏ねても粘りがなくてまとまりません。ではどうするのか。メキシコ伝統の方法はトウモロコシの実を灰汁や消石灰を加えた水で煮て、その後一晩おいてから石臼で挽くというものです。これをニシュタマリゼーションと言い、出来上がった生地をマサと呼びます。この処理によってトウモロコシの果皮の部分が外れ、実も柔らかくなり、加えて粘りも若干生じて生地がまとまりやすくなります。

こういう面倒な過程を要するので、少し前までは本格的なトルティーヤやタコスを出す店はメキシコ料理屋でも少なかったと思います。ところが最近は上述のニシュタマリゼーションを施して凍結粉砕した専用粉(マサ粉)が簡単に手に入るようになりました。これを使うとトルティーヤやタマレスといったマサを使う本格メキシコ料理が簡単にできるのでとても重宝します。

道産デントコーンをニシュタマリゼーションしてみたら…

さて、今回の本題はここからです。前々回のブログでは北海道産のデントコーン(飼料用トウモロコシ)を使って南米料理「ソパパラグアージャ」を作りました。「ソパパラグアージャ」はマサ粉を必要としませんでしたが、今度は同じデントコーンを使い、伝統的なメキシコ料理の手法で一からマサ粉を作り、これでトルティーヤを作ってみようというものです。

ニシュタマリゼーションに必須の消石灰は肥料用をホームセンターで購入

さて、マサ粉作りのレシピを調べると、ニシュタマリゼーションには消石灰が必要と書いています。消石灰は肥料としてよく目にするので、とりあえずホームセンターの家庭菜園コーナで買ってきました。ニシュタマリゼーションとはアルカリ処理なので、以前試しに重曹を使ったこともあるのですが、重曹は効き目が弱く使えないようです。

ニシュタマリゼーションにより色が濃く変化したデントコーン

消石灰の分量は文献通りにトウモロコシの1.5%程度をトウモロコシと混ぜ、水を加えて1時間ほど煮ました。そして一晩おいた翌朝の状態が上の写真です。黄色かった粒の色が少し茶色がかっています。表面にはぬめりが出て、手でしごくと果皮が剥がれます。粒自体は多少柔らかくなっていますが、想定よりは固いままです。

すり鉢とすりこ木では固い硬質澱粉がほとんど砕けずに残った

メキシコ伝統調理法では、ここでメタテと呼ばれる石の皿と棒を使ってトウモロコシの粒を押し潰しながら挽いていくのですが、さすがにそんな道具は持っていないので、今回はすり鉢とすりこ木を使ってみました。ただ写真からもわかる通り、固い硬質澱粉の部分が砕けずに残ってしまいました。

煎餅よりも固くボロボロと崩れやすい、さらに味も悪い失敗作です

固い部分を残したまま、生地を無理やり丸めてトルティーヤプレスを使って伸ばしてみました。やはり粘りがない。焼くとさらにパサパサになってひび割れも生じました。食べても固くて不味い。これはどうみても失敗作のようです。

消石灰を増やして再挑戦

実際に作ってわかった事はトウモロコシの実が想像以上に固いということです。メキシコではメタテという石の道具を使う意味がよくわかりました。すり鉢とすりこ木ではちょっと辛いです。そもそもマサ粉用には食用として同じデントコーンタイプでも黄色ではなく白色のホワイトコーンが使われています。ひょっとしたら実が固いのはこの辺の違いがあるのかもしれません。

消石灰を倍にして再挑戦、前回より柔らかい感じ

さて、仕切り直して再挑戦しました。今度は消石灰を2倍の3%にしてみました。前回同様に1時間煮て様子を見ると、ヌルヌルが強いように思います。

すり鉢はやめてフードプロセッサーを使うが、固い部分はやはり残る

一晩おいて粉砕。すりこ木は疲れる割に上手く挽けないので、今回はフードプロセッサーを使いました。粒は前回よりは明らかに柔らかいものの、まだ固い感じがします。そして黄色味の強い硬質澱粉の部分は前回同様にそのまま残っています。

水を加えて練って何とか丸めるが生地は粗い

少し水を足して練ってから丸めました。これも前日よりはやや塩梅は良いですが、まだ全体に固い感じです。しかし伸ばせないこともありません。写真でも硬質澱粉の部分が残った黄色い粒がはっきりと見えます。

トルティーヤプレスを使って生地を伸ばす

生地を伸ばして成形するにはトルティーヤプレスという器具が便利です。写真は直径6インチサイズのものですが、ちょっと小振りなトルティーヤが簡単に作れます。ラップを被せて使うと器具に生地がくっつきません。ピタパンとかピザとか粉ものを伸ばすときにも使えます。

トルティーヤならぬトウモロコシ煎餅

何とか生地を伸ばせたので鉄板で焼きました。前日よりはましですが、仕上がりはやはり固め、トルティーヤというよりはトウモロコシ煎餅という感じです。

焼きあがったトルティーヤに3種の具をのせて頂きました。その一はキノコとチーズ。写真で見ても煎餅ですね。ただ少し焦げた生地の風味が悪くはありません。

キノコとチーズのトルティーヤ

次はトマトとマスカルポーネ。どちらも水分があって固めの生地に合うようです。

トマトとマスカルポーネのトルティーヤ

最後が醤油バター味。食感は完全に煎餅ですが、焦げた風味とバターの相性が抜群で一番美味しかったです。考えてみればコーン、醤油、バターはスナック菓子にもよくある黄金の組み合わせかもしれません。トルティーヤとは少し外れるけどいけます。

バター醤油トルティーヤというより完全に煎餅

北海道産デントコーンの実から作ったメキシコ伝統の食トルティーヤ。市販のマサ粉で作るトルティーヤとはかなり異質ですが、トウモロコシの風味が強く感じられ、これはこれで美味しいです。トッピングをあれこれ工夫するのも面白いと思います。雑誌なんかで見ると最近は本場から食用のホワイトコーンやパープルコーンの実を輸入して、粒から粉を挽いて作るスタイルのトルティーヤを出すメキシコ料理店が結構あるようです。僕自身はまだ食べたことはないのですが、果たしてこんな感じなのでしょうか。まだまだ研究が必要です。