トウモロコシを挽いて国産タコスに再チャレンジ

古代メキシコ人の知恵ニシュタマリゼーション

一年くらい前に国産の飼料用トウモロコシの実を挽いて、メキシコの主食トルティーヤを生地から作ろうと悪戦苦闘した経緯を記事にアップしました。トウモロコシの子実は小麦と違ってグルテンを含まず、このため粘りがなくて生地がまとまり難いというのが特徴です。これを解決した古代メキシコ人の知恵がニシュタマリゼーションという子実のアルカリ処理です。この処理を施すことでトウモロコシの実が柔らかくなって粘りが生じ、調理がしやすくなるだけでなく、人間が吸収する栄養量も増加するそうです。まさに、これぞ人類の知恵といえるような画期的なアイデアであり、実際ニシュタマリゼーション無しにはトルティーヤもタコスも生まれなかったでしょう。

手作りトルティーヤを作るならインスタントマサがお薦め

一般に目にするトウモロコシ粉にコーンミールがあります。これは単純にトウモロコシを細かく挽いた粉で、もちろんニシュタマリゼーション処理はされていません。このため練っても粘りが生じず、トルティーヤのようなパンタイプの調理には使えません。一般にはあまり目にしませんが、アマゾンなんかで比較的簡単に手に入るのが、インスタントマサと呼ばれるメキシコ製のトウモロコシ粉です。マサというのはニシュタマリゼーション処理したトウモロコシを挽いたもの(本来は生)の呼び名です。インスタントマサはこのマサを粉にして乾燥し、水を加えて練るとすぐ生地になる、文字通りのインスタントなマサです。生地はとても扱いやすく、小麦粉を練るのと全く変わりありません。手軽に風味があるトルティーヤの生地が作れるので、トルティーヤやタコスを手作りしたい人には是非お薦めします。市販品よりもずっと美味しいトルティーヤやタコスが出来るはずです。このインスタントマサ、最近は白に加えて紫の粉も手に入ります。実は食用のトウモロコシには黄色よりも白や紫の品種が多いのです。恐らく白や紫の色のトウモロコシには色と同時に人間の食用に適した特徴が備わり、それが長年の育種の結果残ったのだと思います。

紫と白、二色のインスタントマサ。アルカリ処理したトウモロコシを乾燥して粉にしたもの。

国産の黄色いデントコーンをニシュタマリゼーション処理する

インスタントマサはとても優れモノですが、やはりトウモロコシの実を挽いた本格マサも作ってみたいというのは僕にとって長年の課題です。最初の関門であるニシュタマリゼーションに前回は農業用の消石灰を使いましたが、今回は正式な食品添加物でもある「ほたてカルシウム」というものを使いました。実は化学成分としては基本的に変わらないのですが、使うならやはりこちらの方がお薦めです。原料のホタテは北海道産なので今回使った材料の道産トウモロコシとの組み合わせにもマッチします。その道産トウモロコシは元々は飼料用に作られるデントコーンを使っています。色は黄色ですが、写真にあるように実の先端が黒くなっています。これはブラックレイヤーと呼ばれる部位で、実が完熟している証拠です(ブラックレイヤーは人間のへその緒と同じで、ここが切り離されると子実(種子)が独立する)。

北海道産ホタテからできた「ほたてカルシウム」と黄色いデントコーンP9027。

基本のニシュタマリゼーションは、先ずよく洗ったトウモロコシを鍋に入れて水を加えます。これに「ホタテカルシウム」(消石灰)をトウモロコシ重量の5%用意して鍋に加え、かき混ぜながら火にかけて約1時間くらい中火で煮込みます。そして火を止めたらそのまま一晩置きます。このニシュタマリゼーションによってトウモロコシの表面にはぬめりが生じ、色はやや赤身が強くなります。

「ほたてカルシウム」と一緒に煮込み、一晩置いたトウモロコシ。

フードプロセッサーでは硬質デンプンが潰れない

本場メキシコではニシュタマリゼーションしたトウモロコシを石の皿と棒(メタテとマノ)ですり潰してマサを作ります。トウモロコシの実は硬質デンプンと軟質デンプンが入り混じっています(割合は種類によって異なる)。硬質デンプンはガラスのように固く、ある程度細かくなっても、粉のように砕くのは至難の業です。また木の臼と棒は柔らか過ぎて使えません。細かくするというよりは「すり潰す」というやり方が最も適していて、メキシコ人が石の道具を使うのはとても理にかなっています。

フードプロセッサーではやはり無理があるようです。

さて、家に石臼はないので粉砕は今回もフードプロセッサーを使いました。実は「ほたてカルシウム」の効果にも多少期待していたのですが、結果はやはり前回と同じ、硬質デンプンの部分が細かくならずに粗めの粒で残りました。試しにこの生地を丸めてトルティーヤプレスで伸ばしてみましたが、やはり粘りがないのでポロポロと崩れてしまいました。

試しにトルティーヤプレスで伸ばしてみましたが、結果はご覧の通り。

因みに、いろいろ調べてみると海外で使われている手動のグレインミルグラインダーというのがマサ作りに使えるようです。これは海外のYouTube動画でも多くの人が推奨しているので間違いはなさそうです。ただメキシコ人のように毎日トルティーヤを食べるわけではないので、これを買おうか買うまいかはまだちょっと思案中です。

今回は妥協してインスタントマサとミックスすることに

今回の目標はインスタントマサと国産トウモロコシを使い、白・紫・黄の三色のトルティーヤでタコスを作ることでした。黄色はこのままではどうしようもないので作戦を変更し、つなぎにインスタントマサの粉を加えて捏ねてみることにしました。この作戦は大成功で、直ぐにトルティーヤ用の生地を練ってまとめることが出来ました。

つなぎにインスタントマサ粉を加えて混ぜると生地が直ぐにまとまりました。

三色の生地をトルティーヤプレスで伸ばします。

黄色の生地が何とかできたので、残りの白と紫を練ることにします。こちらはインスタントマサ100%なので難なく直ぐに仕上がりました。

紫色のインスタントマサに水を加えながら練り込みます。
出来上がった三食の生地。黄色は粒がよくわかります。

出来た生地を小分けしてトルティーヤプレスで伸ばします。トルティーヤプレスはこのブログでも何度か紹介していますが、ピタパンや餃子の皮なんかにも使える、とても便利なモノなので、粉モノ好きなら一台持っているとても重宝すると思います

出来上がった生地は小分けしてトルティーヤプレスで伸ばします。

生地を焼いたらトルティーヤの出来上がり

さて、では生地を焼いていきます。最初は紫の生地からいきます。片面3分くらい。様子を見ながらひっくり返せば出来上がり。本場風に布で包んで保温すると気分が盛り上がります。鉄板やフライパンは厚めのものがお薦めです。写真のものはクレープ用のクレープパンです。

生地を焼きます。ちょっと厚めの鉄板やフライパンががあるとなお良いです。

次は黄色を焼いてみます。写真でも明らかなように粒がはっきりとした、スナック菓子のような雰囲気で、いかにもトウモロコシという感じで主張しています。仕上がりもスナック菓子のようにやや固めでした。

挽いたトウモロコシ粉とインスタントマサをミックスした黄色トルティーヤ。
三色揃い踏み。

トッピングを変えて色々な味が楽しめるタコスの魅力

最近は日本でも本格的なタコスを出す店が増えているようです。しかし、手作りの場合はあまり本場に拘らずに自由に作る方が楽しいと思います。具も定番のタコスソースで味付けした肉に加え、何でも好きなものを用意してトッピングするとパーティなんかでむしろ喜ばれるのではないでしょうか。今回はラム肉、定番タコスソース味の鶏肉、エビのアボカド和え、ザジキソース、ポテトサラダ、ゴーダチーズを用意し、さらに薬味で青唐辛子、赤タマネギ、レモンを加えました。ザジキソースとラム肉はピタパンに挟めば定番ギリシャ料理「ギュロス」ですが、トルティーヤに挟めばタコスになって味変します。

色んな具材をトッピングするとタコスはより楽しくなります。

黄色のトルティーヤですが、仕上がりは固めでしたがトウモロコシの風味が最も強く、何というか田舎蕎麦のような塩梅で味を楽しめました。具材を乗せたものも良かったのですが、一番おいしかったのはフライパンの上で温め直してバターを乗せ、醤油を少し垂らしたバター醤油味でした。これはスナック菓子の王道ともいうべき定番の味でもあり、正直最もいけてました。

トウモロコシは最初は慣れない味で違和感があるかもしれませんが、一度慣れると癖になります。トウモロコシの実を挽くのはちょっと無理でもインスタントマサなら手軽で使いやすいので一度是非手作りのトルティーヤとタコスを試してみてください。

三色のタコス。バター醤油は絶品。
ポテトサラダも意外と合いました。