アメリカの田舎で知ったプルドポークの味
プルドポークとは豚肉を長時間のスモークで柔らかくなるまで調理した後に細かくほぐし、それに甘めのBBQソースをからめてハンバーガーやサンドイッチにして食べる料理です。アメリカンBBQのレシピ本には必ず登場する超定番メニューと言っていいと思います。
僕がプルドポークを初めて知ったのはミネソタ州の農村地帯を訪れたときでした。そこは果てしなくトウモロコシ畑が続くコーンベルトの一角にある大きな農場の中庭で、僕はその日の夕方に予定されていた催しに参加するためにそこにいました。
日が傾きかけたころからピックアップトラックに乗った近隣の人たちが会場に大勢集まってきました。その時、参加者に出された夕食がプルドポークバーガーだったのです。それは肉だけの地味なハンバーガーで、正直最初僕はちょっとがっかりしていました。ところが、周りの人たちは、その一見チープなハンバーガーを喜んで受け取り、しかも美味そうに食べているのです。訝しみながら実際食べてみるとそのハンバーガーの味はなかなかで、ビールとの相性も抜群でした。
プルドポークの美味さは長時間のスモークが作る
プルドポークは以前このブログでも紹介した「ブリスケット」と同じく、肉を長時間スモークすることで風味と食感を加える料理です。このスモークという手法はアメリカンBBQを語る際に欠かせない特徴であり、プルドポークの場合もスモーク抜きで単に圧力鍋で肉を柔らかく調理するだけなら、それは気の抜けたビールのようなものにしかならないと思います。
さて、このアメリカ式のスモークを行うには単に網の上で肉を焼くだけのグリルではなく、蓋つきのスモーカーグリルが必要となります。こうしたグリルには、例えばWeberのオリジナルケトル等も含まれます。
僕自身がスモーカーグリルとして愛用しているのは以前のブログ記事で書いたチャーブロイルのオフセットグリルです。別の記事に書いたブリスケットもこのグリルで作りました。
この型のグリルは日本ではほとんど見かけませんが、スモークがポピュラーなアメリカではとても一般的な型のグリルのようで、実際YouTubeの動画でも普通に目にします。またスモークということに限って言えば、燃料(炭)の追加に蓋の開閉が必要なWeberのグリルよりもオフセットグリルの方が温度管理が容易で使いやすいと僕は思います。
僕がスモーカーに使う炭は「オガ備長炭」
プルドポークの調理過程は冒頭のYoutube動画で詳しく紹介しています。スモークの過程で特に重要なのは温度管理で、プルドポークの場合はグリル内の温度を120-130℃位に保ちながら肉の内芯温度を90℃位まで上げていきます。オフセットグリルが温度管理をしやすい理由は炭を燃やすサイドルームが独立しているので、調理中にメインルームの蓋をいちいち開けなくてよいことです(蓋を開けると温度が一時的に低下してしまうため)。
燃料に使う炭に関しては、僕はホームセンターで普通に売っている「オガ備長炭」を使っています。スモークの場合は炭で直接材料を調理するわけではないので、例えば本物の「備長炭」のような高価ものは不要なだけでなく使い難くなります。必要なのはある程度火持ちが長く温度が安定していることで、普通の炭だとこの点がちょっと物足りなくなります。
最初はチムニースターターに普通の炭とオガ備長炭をミックスして入れて火を起こし、オガ備長炭にも十分火が着いたところでサイドルームに炭を入れます。また炭を足すときは必ず既存の炭の下に置きます。こうすることで足した炭に自然に火が移っていきます。これを適度な間隔で(大体1時間おき)繰り返していくのですが、温度がどうしても上がらない場合は炭の量を増やして調整します。
オフセットグリルの基本的な温度の調節はサイドルーム横のダンパとメインルーム上の煙突の開閉で行います。開くと空気が流れて温度が上がり、閉じると下がります。炭の燃焼が安定した状態であれば、このダンパと煙突の開閉作業でほぼ正確な温度管理をすることが可能になります。
温度のモニターにはワイヤレスの温度計が便利
さてスモーカーグリルのスモーク調理には温度計が必須です。スモーカーグリル本体にも温度計(たいていは蓋に)が付いていますが、同じルーム内でも天井部と実際に調理するグリルの底の方とでは温度差があり、付属の温度計はあまり正確な指標にならない場合が多いようです。また、グリル内の温度と肉の温度はできれば常時計測したいところで、こうした要求を全て満たしてくれるのがBBQ専用の温度計です。僕が使ってお薦めなのは「Meater」というワイヤレス温度計で、肉に刺すだけで離れた場所から温度を常時モニターできます。
スモークBBQはスローな大人のBBQ
BBQというと大勢でワイワイと楽しむのが一般的ですが、このプルドポークやブリスケットは、そのようなBBQとは趣が異なる、ちょっと大人のBBQだと思います。準備は前日か時にはそれ以前から始まり、丸一日をかけて、たいていは一人で、火加減やなにやらを微妙に調整しながら気持ちを集中して作るBBQ。芸術とまでは申しませんが、きわめて趣味性の強い行為だと思います。僕も先日還暦を過ぎたばかりなのですが、このくらいの年になって知る面白さがこの種のBBQにはあるようです。今のコロナ禍のBBQとしても向いているのかもしれません。
今回のプルドポークは温度管理は上手くいったのですが、仕上がりが想定よりもやや固めでした。調理時間がもう少し必要だったかもしれません。温度だけではなく、時間とのバランスが重要なのだと、改めて知った次第です。スロークッキングは焦らずにじっくりと料理することが大事ですね。
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