燻製の王様スモークサーモンを作る

 

燻製の王様スモークサーモン

数ある燻製料理のなかでスモークサーモンは特別な存在と呼んで異論はないと思います。そして、それは食べる場合以上に、実際に自分で作る場合の方が一段と強くなると思います。調理にかける手間と時間、素材の選択や仕込み、気温や湿度等の環境条件への配慮、これらの全てが「燻製の王様」にふさわしいハードルの高さを作り出しています。

オリオン座と冬の大三角形、燻製の季節到来

スモークサーモンに冷凍の鮭を使う理由は?

最近は北海道でも鮭の漁獲量が大幅に減少しており、魚屋やスーパーの売り場で見る秋鮭も量が少なくなり、一方で価格は年々高くなっています。ただ、それでも他の都府県と比べればまだまだ新鮮な鮭が手に入りやすいのも事実です。かってはシーズンになれば新鮮な鮭が半身数百円とかで安売りされていました。僕が最初にスモークサーモンを作った時も、こうした地元産の安くて新鮮な鮭を使いました。ところが、そこに重大な落とし穴があったのです。それはアニサキスでした。

アニサキスと言うと一般にはサバや秋刀魚のような青魚をイメージされるかもしれません。しかし鮭もアニサキスによる食中毒がある魚で、そのため北海道では昔から生身の鮭を凍らせたルイベと言う食べ方をします。アニサキスは一度冷凍させると死滅するのです。

以前の僕はその辺の知識が曖昧で、何となくスモークサーモンには新鮮な鮭が良く、さらにはスモークすれば危険が減小するのではと考えていました。しかも僕が参考にしていた燻製の作り方の本にはアニサキスの事など全く記述がありませんでした。よく考えれば、東京などで買う鮭は基本冷凍物で、アニサキスの心配など考える必要がなかったのですね。新鮮な鮭が手に入る、北海道ならではの落とし穴でした。

その時は幸い大事に至りませんでしたが、スモークサーモンをたらふく食べたその夜から数日間、独特の腹痛と不快感、そして恐怖に怯えました。僕は今まで2回ほどアニサキスにやられましたが、幸い激痛に襲われたことはありません。アニサキスは胃に入ると大抵は胃酸で溶けてしまうらしいです。

ロシア産冷凍紅鮭を一匹捌く

こんな過去の経験があったので、今回は新鮮な鮭を避けてロシア産の冷凍紅鮭一匹2㎏をネットで購入しました。こいつは「アニサキスフリー」です。道産の鮭なら近くの市場へ行けば手に入るのですが、今回は紅鮭を使いました。これは単純に紅鮭で作るスモークサーモンに対する憧れからです。一度は作ってみたかったのです。ただスモーク用には無添加の鮭が必要で、そうなると一匹を買って自分で捌かなければなりません。正直魚を捌くのは全くの素人なのでお世辞にも上手くは出来ませんでしたが、これも愉しみの一部と割り切れば思い切ってトライする価値は十分あると思います。

「アニサキスフリー」のロシア産冷凍紅鮭

今回のスモークサーモンはハード系で

スモークサーモンと言えば北海道の名産品の一つである「王子のスモークサーモン」があります。本場ヨーロッパ風のソフトでなめらかな舌触りを持つこのスモークサーモンは、まさに一般にイメージされる高級スモークサーモンです。この種のソフトでリッチなスモークサーモンの作り方はYouTube等でも結構紹介されています。ただ、今回僕が作ったスモークサーモンは、こうしたソフトタイプではなく、ハード系のスモークサーモンです。

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ソフト系とハード系は何が違うのかと言えば一番大きいのは水分の違い、そして次に燻煙の強弱の違いになると思います。ソフト系のスモークサーモンは、水分が多いので身はとても柔らかですが、その分日持ちはしません。燻煙は一般に弱めで、軽く煙をあてる程度のものも多いようです。全体的に製作にはフランス料理を作るような繊細さが必要になると思います。

一方でハード系は水分が低めで燻煙は強め、その典型は雑誌やテレビでも見ることがあるカナダの原住民が作る伝統スモークサーモン、燻煙はしませんが、北海道名物の鮭とばなどもイメージ的には近いかもしれません。こちらは時間をかけて水分を落とすので身は硬め、燻煙も強めで長くあて、日持ちします。ソフト系に比べると全体に野性味が強いのが特徴かもしれません。今回僕が作ったものはハード系の基本コンセプトにソフト系コンセプトもやや加味したセミハードくらいに分類されるものになるかもしれません。

先ずは一晩ソミュール液に漬ける

三枚におろした鮭は直ちにソミュール液に漬けます。スモークサーモン作りではここで「乾塩法」をとるか「湿塩法(ソミュール法)」を取るかの選択肢があります。僕は毎回ソミュール液に漬けます。理由はソミュール液に漬ける方が簡単だからです。スパイスなどの風味付けもしやすと思います。「乾塩法」は直接塩をすり込む形が多く、味加減が難しいように見えます。

ソミュール液は水に塩、ローレル、タマネギ、セロリのような香味野菜、ワイン、白黒コショウ等を加えてひと煮立ちさせたものです。これを鮭の半身と一緒にビニール袋に入れ、冷蔵庫に1日半置きました。

ソミュール液に1日半漬けた紅鮭

漬け終わった鮭は袋から取り出し、表面の水分をふき取り、布に包んでパットに入れた状態で冷蔵庫の中で一晩乾燥しました。

半日ごと燻煙と乾燥を4日間繰り返す

一般にスモークサーモン作りは気温20℃以下の冬に限ると言われます。11月も半ばになると北海道の気温は0℃~15℃くらいまで下がるので、この点で問題はありません。使用するスモーカーは半身の鮭にも十分対応できる大きさがある、愛用のアールテックサービスさんのツインパネルスモーカー。紅鮭の半身の表面にオリーブオイルを軽く塗って中に吊るします。

スモークサーモンは冷燻なのでヒーターのような熱源は使いません。燻煙にはスモークウッド(桜)を使ったので多少の熱を発しますが、外気温が低いこともありスモーカーの内部が20℃を超えることはありません。スモークウッドは2本半をコの字型に並べて使い、10-12時間連続でスモークできるようにします。今回はこうして半日ごと燻煙と乾燥を繰り返しました。因みに明け方の外気温はマイナスにまで下がりました。

スモーカーの底にスモークウッド(桜)をコの字型に配置する
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燻煙ー乾燥を4回繰り返して仕上がり

燻煙は夜スモークして昼間は乾いたタオルに包み冷蔵庫で乾燥する、という工程を4回繰り返しました。スモークウッドの煙が強かったせいか思ったよりもスモーク感が強くなり、鮭の表面は色濃くなっています。写真では一見鮭とばのようでもあります。

完成直後のスモークサーモン
居酒屋や炉端焼きの店にこんなのがよく吊るされていますね

完成したスモークサーモンは切り分けて皮をはぎ、保存用にパックに入れ真空処理しました。

さて、味は如何なものか?

さて、約1週間かけて完成した自家製スモークサーモン。見た目は表面の色も煙で黒く染まって王子のスモークサーモンとは大違い、どちらかと言えば居酒屋や炉端焼きの店に飾りで吊るされている魚みたいに見えます。ただ実際に包丁を入れてみると、中は間違いないオレンジ色の鮭の色で、肉も見た目より柔らかく脂が乗っていました。水分が抜けているのでレストランのスモークサーモンのように薄く切り分けることはできませんでしたが、厚切りの身は迫力があります。

薄くは切れないものの脂がのり、見た目より柔らかな出来上がり

肝心の味はどうかというと、一口で言えば濃厚で旨いです。時間をかけたぶんの熟成味が加わり、また水分が低いことから旨味が濃縮されているようです。決してデリケートな味ではありませんが、市販のものにない別な美味さが感じられます。

自家製ならではのスモークサーモン料理を楽しむ

僕の個人的な意見を言えば、この種のハード系のスモークサーモンは料理にこそ真価を発揮します。定番のスモークサーモン料理であっても、その味が一段と深まるように思えるのです。

定番のサラダ、クリームチーズに負けない濃厚な旨味

定番のスモークサーモンのサラダも味が一段と濃厚になり、クリームチーズなどにも負けない濃厚さがあります。パンに乗せてカナッペのようにしても美味しいです。

スモークサーモンのクリームパスタ、僕の一番のお薦め

僕の一番のお薦めはクリームパスタ。市販のスモークサーモンにはない強い燻煙の風味が、野趣を醸し出し、また濃厚な味はクリームソースに負けません。

スモークサーモンは燻製好きなら一度はトライする価値があると思います。作り方はお好み次第。そして、何と言っても量を気にせずに思いっ切り使えるのが自家製の醍醐味です。

*燻製の過去記事もご覧ください。

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